夢の家 棺桶で眠った話

新潟県の越後妻有地域、十日町市・津南町で3年に一度開催されている、大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ。
東京23区よりも広い面積約760㎢のエリアの約200の集落…野山や渓谷、棚田など美しい自然や農村の原風景の中に、会期中の約2~3ヶ月間、300を超えるアート作品が展示される大規模な芸術祭です。
作品の一部は、会期終了後も通年にわたり見学でき、いつ訪れても地域に点在するアート作品に触れることが可能です。

この記事で紹介するのは、その大地の芸術祭の作品「夢の家」で、棺桶で眠ったときの話です。
悪夢のような体験でした。笑

「夢の家」(新潟県十日町市松之山湯本643)は、大地の芸術祭の作品の1つで、第1回開催の2000年に旧ユーゴスラビア出身の作家マリーナ・アブラモヴィッチにより築100年を超える古民家を利用して制作・公開され、以降はこの集落の方により維持・管理され、大切に守られてきました。
芸術祭会期中以外も夏期は見学が可能で、6月~11月は宿泊することができます。(現在は1日1組限定/1組4名まで。1組¥33,000)
宿泊者は棺桶のようなベッドで眠り、起きた朝に見た夢を置かれたノートに綴る、という企画で、宿泊者たちが綴った夢のノートが本にもなっているそうです。
芸術祭で夢の家を訪れた時に、この棺桶のようなものに泊まることができると聞き、ぜひここに泊まってみたい!と思ったものの、会期中は予約で埋まっていたので、その年の芸術祭終了後の2015年11月に宿泊の予約をしました。

夢の家 外観 古い古民家
夢の家 内観
夢の家 内観 

NIGHTMARE DREAMS!恐ろしい言葉がたくさん並んでいますね。笑

棺桶…?

夢を見るための部屋です。
芸術祭会期中は、アート作品を巡るのに必死で、ゆっくり見ることのできなかった越後妻有の風景をゆっくり見るという目的を兼ねての旅でしたが、ひとり旅で計画していたため、直前になり、夢の家の様子を思い出し「本当にひとりで無事に過ごせるか?」と、とても不安になりました。
夢の家は、集落の中にある古い古民家。日中、見学者に開放している間はスタッフがいますが、宿泊者が夕方にチェックインを済ませるとスタッフは帰宅し、宿泊者のみに。古い古民家にひとり、そして棺桶で眠る…、というなんともシュールな宿泊。これは結構しんどいかもしれないな、と思い始め、結局この時は直前でキャンセルを選択。
工程は組んでいたので、宿泊先だけを変えて(この時宿泊したのは山ノ家ドミトリー。素敵なゲストハウスでした)旅に出て、宿泊こそキャンセルしたものの、日中に夢の家を見学のため再訪しました。
夢の家で受付を担当していた女性に「実は今日泊まる予定だったんです…」とお伝えすると、「ああ、大畠さんですね」「他に予約がなくおひとりだったから、ちょっと心配していたので、大丈夫ですよ」と。
他にも、定員が4名までなので、現地で一緒になった人たちが合わなくて一方がストレスを貯めてしまう、なんてこともこれまでにあったりしたそう。女性と少しお話をして、女性がこの集落に住み、夢の家の管理のボランティアをつとめているということを伺いました。芸術祭の会期中や、見学開放している期間は受付や清掃をして、冬季閉鎖は閉鎖、また翌年の開放時に大掃除をしたり。女性は、芸術祭が開かれる前に関東の別の地域からこの地に結婚を機に移住をしてきたそうで、最初はこの地域にとんでもなく雪が降ることに驚いたと言っていました。そして2000年の第一回芸術祭の時に作られたこの夢の家。最初、集落の他の人たちは、「海外から来た人が何かよく分からないことをやっている」と関わらなかったそうです。会期を重ね、全国各地から芸術祭を訪れる人たちを横目に見ているうちに、「どこから来たの?」と来場者に声をかけるようになったり、「野菜持っていく?」と積極的になっていった、と聴かせてくれました。
わたしが初めて訪れた2012年、どっぷりと浸かった2015年、2018年の開催では、本当に地域の方々の温かさや交流を肌身で感じていたので、それまでの複数年の歴史があるんだな、としみじみ胸にくるものがありました。
これまでの管理・維持ボランティアの御礼を伝えつつ、「今度は仲間を見つけて、また絶対に来ます」と、その時はその場を後に。


そして、年が明けた2016年4月に夢の家宿泊、棺桶での睡眠に再チャレンジすることに。
十日町にある、星峠の棚田の写真を撮るついでに、仲間を連れての宿泊となりました。
夕方に夢の家にチェックイン。前回の訪問時にお話を聴かせてくださった女性とも再会。改めて宿の利用についての説明を受けました。
夕食は提供がないので、近場で済ませるか買って持ち込むことをお勧めします。
夢の家ではいくつか決まりごとがあるのですが、眠るための準備として薬草を入れた湯に入ります。銅製の風呂で、海外から取り寄せたものだそうです。

夢の家のお風呂
薬草
薬草を入れた湯に入ります

ちなみに、シャワーなどはなく、普通のお風呂に入りたい場合は近くに温泉があります。施錠は各自で行うので夜間の外出も自由です。

夢を見る部屋 中央に棺桶のような箱 

色の違う部屋が全部で4部屋あり、宿泊者はそれぞれの部屋で一人ずつ眠ることになります。

見た夢を記すノート

たくさんの方が夢を書き記していますが、眠りに着くまでのエピソードが苦しそうなものばかり…。

夢を見る部屋
夢を見る部屋
夢を見る部屋

実際に眠るときは、特殊なスーツを着て眠ることになります。棺桶の中に布団がないので布団代わりにもなるスーツですが、これがまたなんとも言えない不思議なスーツ。身動きがとりにくく、着用してから寝るまで一苦労でした。
そして、実際に眠りにつこうとしたものの、この寝心地の悪さ、また、古民家の一室の棺桶の中で眠るという心細さと相まって、苦しくて悪夢にうなされた夜でした。この環境でいい夢を見れる人がいるのでしょうか…。

囲炉裏
朝食

とても快眠とは言えない朝を迎えて。
囲炉裏の間で朝食を。この時は朝食にパンとコーヒーの提供がありました。

全体的に写真がブレているのは何かの表れでしょうか。
でもとても貴重な体験でした。

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